BLS横浜がよく話題にしているPEARS(ペアーズ)とはなんなのか? というご質問をいただきました。
PEARSプロバイダーコース は、アメリカ心臓協会(AHA)が開発した新世代型の医療者向けの急変対応研修プログラムです。
医療者向けの急変対応といえば、BLS と ACLS のイメージがありますが、これを一次救命処置、二次救命処置と言い換えた場合、PEARSはゼロ次救命処置に相当します。
心停止が起きてしまったらどうしよう、というのではなく、心停止は予兆に気づけば防げるもの、という視座で作られている点で、今までにない画期的なプログラムです。
これは成人に多いとされる心原性心停止を考えればその通りなのですが、病院内で起きる心停止に関しては必ずしもそうではないと言われだしたのが2005年頃でした。
いまでは、病院内の心停止のうち、除細動が適応となる心室細動・無脈性心室頻拍によるものは2−3割程度にすぎないことが知られてきています。
逆にいえば残りの7−8割は、段階的に進行する「防ぎ得る心停止」であるというのが、最近の考え方です。
とすると、BLS や ACLS といった心停止後の対応を学ぶだけでは、救える命を救えないといえます。
そこでいま、ゼロ次救命処置研修である PEARS が着目されているというわけです。
小児領域では、もともと子どもは心原性心停止は多くないという理由から、「心停止の予防」にフォーカスした教育展開を行ってきました。その集大成が AHA の PALS (パルス)なのですが、その PALS の中からアセスメントと心停止予防の部分を切り出して、強化されたのが PEARS です。
2008年に開発されて、2012年にアップデートされたのが現在の PEARS は、引き続き小児急変をテーマとしていますが、そこで学ぶ呼吸障害と循環障害の病態生理とアセスメントの視点は、子どもに限らず、成人の生命危機のアセスメントにもそのまま使えます。
BLS横浜では、特に PEARS を小児以外に応用するという視点を強化した PEARS を展開しています。
呼吸障害
・上気道閉塞
・下気道閉塞
・肺組織病変
・呼吸調整機能障害
循環障害
・循環血液量減少性ショック
・血液分布異常性ショック
・心原性ショック
・神経原性ショック
目の前にいる具合の悪そうな人が命を落としてしまうとしたら、原因は呼吸障害なのか循環障害なのか? さらにはタイプはなに?
視点を絞って観察し、アセスメントして障害のタイプが分類できれば、必然的に命を救う手立てが見えてきます。
例えば吸気時喘鳴があって、上気道閉塞にタイプ分類できれば、咽頭部の腫れを引かせるために血管収縮薬(アドレナリン)が必要という判断ができます。その間にも窒息で命を落とす危険があれば、何らかの方法で気道確保をし、自発呼吸が難しければ人工呼吸によって、酸素供給をして根本治療までの時間稼ぎをする手立ても見えてきます。
このように命を落とす仕組みを理解して、心停止にさせないための介入を行う、そのための体系的なアセスメント法を学ぶのがPEARSです。
恐らく日本では倫理的な問題から、このような映像教材を作るのは極めて難しいと思います。
呼吸努力が見られて、呼気延長とウィーズ( Wheeze 呼気時喘鳴 )があったら、下気道閉塞疑いが濃厚、というのは教科書的に学べます。
しかし、患者を診たときに呼気延長やウィーズに気づけるか、が問題です。
知識と臨床判断をつなげるような訓練は、実臨床で鍛えていくのがいちばんですが、学べる現場は極めて限定的です、そこを体系的に訓練できる教材は PEARS 以外ないでしょう。(PALS の DVD でもそこは学べません)
・体系的アプローチ(アセスメント法)
・安定化のための介入
アセスメント法はリアルな映像教材を見ながら、受講者同士のディスカッションを通して学びます。
アセスメントの目的は、障害のタイプと重症度を判定することですが、判定をしたらオシマイ、というものではありません。言うまでもなく、次のステップである急変対応(介入)につなげるための過程に過ぎません。
その安定化のための介入をトレーニングするのが、シミュレーション・セクションです。
マネキン相手ではありますが、所見を見ながら、気道確保をしたり、経路と流量を考えながら酸素投与したり、輸液をしたり。それによってリアルタイムにバイタルサインや患者の反応が変わってきます。反応を再評価して判定、介入を繰り返していく訓練は机上で行うものとはまったく違います。
というのは、そこにはチームが介在するからです。
なぜか2012年の改訂 PEARS では、シミュレーションを省略しても構わないと方針転換されたため、時間短縮のためにシミュレーションを一切行わない PEARS コースも増えてきているのですが、現場でのアウトカムを考えたときに、シミュレーション訓練は欠かせないと考えています。
その分、時間が長めになるのは致し方ない部分ですが、せっかく1日かけて、新しい急変対応の概念を学ぶのであれば、しっかりと見につけてほしい、という思いで PEARS 展開しています。
ということで、PEARS がいかに画期的なプログラムかということを説明してきました。
2008年にPEARSが開発されてから、日本でも似たコンセプトでいくつかの研修プログラムが作られてきましたが、やはり、リアルな患者の動画を使うという点では PEARS に追いつくものとはなっていません。
今後も倫理的な問題を考えると、日本人の実際の患者映像を使った教育プログラムができるかといえば、難しいのではないかと思います。
だからこそ、米国で撮影された非アジア系の子どもの映像であるという、私たちからしたら日本の現場にそぐわない部分があったとしても、それでもあまりある価値があると考えています。
現時点、横浜での次回の PEARSプロバイダーコース with シミュレーションの開催予定は立っていませんが、2017年3月以降くらいには計画していきたいと思っています。
また、
12月23日(祝)・・・福岡県久留米市(CPR-net久留米と共催)
12月26日(月)・・・静岡県藤枝市(BLS静岡スキルアップラボと共催)
2月26日(日)・・・沖縄県那覇市(BLS沖縄と共催)
での Sim-PEARS 開催は決まっており、引き続き参加者募集中です。
PEARS自体は今は全国展開されていますが、本来のシミュレーション込みの PEARS プロバイダーコースを開催しているところはほとんどありません。そのため、BLS横浜が提供する Sim-PEARS の需要は高く、求めに応じて全国に出向いて講習展開を行っています。
もし病院等で開催希望があれば、出張講習も検討しますので気軽にご連絡ください。
PEARSプロバイダーコース は、アメリカ心臓協会(AHA)が開発した新世代型の医療者向けの急変対応研修プログラムです。
医療者向けの急変対応といえば、BLS と ACLS のイメージがありますが、これを一次救命処置、二次救命処置と言い換えた場合、PEARSはゼロ次救命処置に相当します。
心停止が起きてしまったらどうしよう、というのではなく、心停止は予兆に気づけば防げるもの、という視座で作られている点で、今までにない画期的なプログラムです。
(院内)心停止は突然じゃない!
従来型の急変対応研修や救命講習は、「心停止は突然に起きる」という前提で組み立てられていました。これは成人に多いとされる心原性心停止を考えればその通りなのですが、病院内で起きる心停止に関しては必ずしもそうではないと言われだしたのが2005年頃でした。
いまでは、病院内の心停止のうち、除細動が適応となる心室細動・無脈性心室頻拍によるものは2−3割程度にすぎないことが知られてきています。
逆にいえば残りの7−8割は、段階的に進行する「防ぎ得る心停止」であるというのが、最近の考え方です。
とすると、BLS や ACLS といった心停止後の対応を学ぶだけでは、救える命を救えないといえます。
そこでいま、ゼロ次救命処置研修である PEARS が着目されているというわけです。
小児で発達したアプローチを成人に活かす
PEARS の P は Pediatric(小児)。PEARS は本来的には、小児急変対応研修です。小児領域では、もともと子どもは心原性心停止は多くないという理由から、「心停止の予防」にフォーカスした教育展開を行ってきました。その集大成が AHA の PALS (パルス)なのですが、その PALS の中からアセスメントと心停止予防の部分を切り出して、強化されたのが PEARS です。
2008年に開発されて、2012年にアップデートされたのが現在の PEARS は、引き続き小児急変をテーマとしていますが、そこで学ぶ呼吸障害と循環障害の病態生理とアセスメントの視点は、子どもに限らず、成人の生命危機のアセスメントにもそのまま使えます。
BLS横浜では、特に PEARS を小児以外に応用するという視点を強化した PEARS を展開しています。
命を落とす仕組みがわかれば救う手立ても見えてくる
ヒトが命を落とす原因を突き詰めれば、呼吸の問題と循環の問題に大別できます。さらにそれぞれの問題のタイプを下記のように分類できます。呼吸障害
・上気道閉塞
・下気道閉塞
・肺組織病変
・呼吸調整機能障害
循環障害
・循環血液量減少性ショック
・血液分布異常性ショック
・心原性ショック
・神経原性ショック
目の前にいる具合の悪そうな人が命を落としてしまうとしたら、原因は呼吸障害なのか循環障害なのか? さらにはタイプはなに?
視点を絞って観察し、アセスメントして障害のタイプが分類できれば、必然的に命を救う手立てが見えてきます。
例えば吸気時喘鳴があって、上気道閉塞にタイプ分類できれば、咽頭部の腫れを引かせるために血管収縮薬(アドレナリン)が必要という判断ができます。その間にも窒息で命を落とす危険があれば、何らかの方法で気道確保をし、自発呼吸が難しければ人工呼吸によって、酸素供給をして根本治療までの時間稼ぎをする手立ても見えてきます。
このように命を落とす仕組みを理解して、心停止にさせないための介入を行う、そのための体系的なアセスメント法を学ぶのがPEARSです。
ホンモノの患者映像、バイタルサインで観察力を身につける
実際に生命危機に瀕している患者映像とバイタルサインデータ、呼吸音など使って観察とアセスメントを訓練していくというのも PEARS が絶大な支持を受けている理由のひとつです。恐らく日本では倫理的な問題から、このような映像教材を作るのは極めて難しいと思います。
呼吸努力が見られて、呼気延長とウィーズ( Wheeze 呼気時喘鳴 )があったら、下気道閉塞疑いが濃厚、というのは教科書的に学べます。
しかし、患者を診たときに呼気延長やウィーズに気づけるか、が問題です。
知識と臨床判断をつなげるような訓練は、実臨床で鍛えていくのがいちばんですが、学べる現場は極めて限定的です、そこを体系的に訓練できる教材は PEARS 以外ないでしょう。(PALS の DVD でもそこは学べません)
シミュレーションの効用
PEARSで学ぶのは、大きく次の2点です。・体系的アプローチ(アセスメント法)
・安定化のための介入
アセスメント法はリアルな映像教材を見ながら、受講者同士のディスカッションを通して学びます。
アセスメントの目的は、障害のタイプと重症度を判定することですが、判定をしたらオシマイ、というものではありません。言うまでもなく、次のステップである急変対応(介入)につなげるための過程に過ぎません。
その安定化のための介入をトレーニングするのが、シミュレーション・セクションです。
マネキン相手ではありますが、所見を見ながら、気道確保をしたり、経路と流量を考えながら酸素投与したり、輸液をしたり。それによってリアルタイムにバイタルサインや患者の反応が変わってきます。反応を再評価して判定、介入を繰り返していく訓練は机上で行うものとはまったく違います。
というのは、そこにはチームが介在するからです。
なぜか2012年の改訂 PEARS では、シミュレーションを省略しても構わないと方針転換されたため、時間短縮のためにシミュレーションを一切行わない PEARS コースも増えてきているのですが、現場でのアウトカムを考えたときに、シミュレーション訓練は欠かせないと考えています。
その分、時間が長めになるのは致し方ない部分ですが、せっかく1日かけて、新しい急変対応の概念を学ぶのであれば、しっかりと見につけてほしい、という思いで PEARS 展開しています。
ということで、PEARS がいかに画期的なプログラムかということを説明してきました。
2008年にPEARSが開発されてから、日本でも似たコンセプトでいくつかの研修プログラムが作られてきましたが、やはり、リアルな患者の動画を使うという点では PEARS に追いつくものとはなっていません。
今後も倫理的な問題を考えると、日本人の実際の患者映像を使った教育プログラムができるかといえば、難しいのではないかと思います。
だからこそ、米国で撮影された非アジア系の子どもの映像であるという、私たちからしたら日本の現場にそぐわない部分があったとしても、それでもあまりある価値があると考えています。
現時点、横浜での次回の PEARSプロバイダーコース with シミュレーションの開催予定は立っていませんが、2017年3月以降くらいには計画していきたいと思っています。
また、
12月23日(祝)・・・福岡県久留米市(CPR-net久留米と共催)
12月26日(月)・・・静岡県藤枝市(BLS静岡スキルアップラボと共催)
2月26日(日)・・・沖縄県那覇市(BLS沖縄と共催)
での Sim-PEARS 開催は決まっており、引き続き参加者募集中です。
PEARS自体は今は全国展開されていますが、本来のシミュレーション込みの PEARS プロバイダーコースを開催しているところはほとんどありません。そのため、BLS横浜が提供する Sim-PEARS の需要は高く、求めに応じて全国に出向いて講習展開を行っています。
もし病院等で開催希望があれば、出張講習も検討しますので気軽にご連絡ください。