2017年に6月16日にお台場で開催された ウィルダネス・リスク・マネジメント・カンファレンス の様子が、アウトドア雑誌Garvyに掲載されました。
このカンファレンスに関しては、医療や法律に明るくないアウトドア専門家たちをミスリードする危険をはらんでいたことは以前にブログでも書かせていただきました。
カンファレンスには、メディア関係者も来ていたため、どのように報じられるかを懸念していましたが、Garvy誌に関しては、きちんと正しく伝えてくれていたため、一安心。
どのような内容だったのかは、ぜひ Garvy誌2017年8月号 の106〜107ページを御覧いただきたいのですが、かいつまんで要点だけを確認し、補足をしておきます。
(ウィルダネス・ファーストエイドが)「一般的に知られる救急法と異なる点は、救急車が来ないようなウィルダネスエリアで、より高度な救急処置を行うことです。例えば、一般的には救急隊員が判断し、医師が処置するような頚椎保護の診断や、脱臼の整復、深い創傷の洗浄や、注射の使用などがこのウィルダネス・ファーストエイドには含まれます」
記事の中では、まずは日本の一般的なファーストエイド(救急法)とウィルダネス・ファーストエイドの違いを明確にしていました。
この点は、先のカンファレンスではまったく言及されていなかったという問題点は以前に指摘したとおりです。
パネラーとして登壇した弁護士や医師が言及する「ファーストエイド」が日本の一般通念によるファーストエイドなのか、北米の特殊なウィルダネス・ファーストエイドなのかはっきりしないまま議論が進んでいたため、オーディエンスに誤解を与える問題点となっていました。
まずは、この違いをきちんと区別して考えることが重要です。
それがウィルダネス・リスク・マネジメント・カンファレンスでは抜けていました。
その点、Garvy記事はきちんと補足してくれています。
その上で、法的な視点ということで次のようにまとめています。
「一般的なファーストエイドを緊急時対応として行うことは問題ないが、『ウィルダネス・ファーストエイドの場合は、実際の個々の案件による』とのこと。事例が多くなく、また判例もないことから、現時点では万が一の場合は『医師法違反にはならないが傷害罪になる』可能性がある、という話でした」
この部分ですが、前回のBLS横浜ブログ記事で書いたとおり、フロアからの質疑応答によって初めて言及された部分でした。つまり、たまたまの質問がなければ全くスルーされていた部分です。ここをきちんと拾ってくれた記者の方には感謝です。
医師法違反が問われるのは、「反復継続の意志」を持って医行為を行った場合ですから、単発の偶発的な医療行為が医師法に抵触しないのは、AEDやエピペンの市民解禁ですでによく知られているとおりです。
しかし、医師以外が行う医行為は、その正当性を担保するものがありませんから、社会的相当性によって判断され、否となれば、人を傷つけたという傷害の罪が問われる可能性は十分にありえます。これは医師法とはまったく別の問題としてウィルダネス・ファーストエイド・プロバイダーの前に立ちはだかっているのです。
一般の方はあまり考える機会がないかもしれませんが、医療行為のほとんどは、目的や妥当性を誤れば、人を傷つける行為、傷害と紙一重です。
つい先日も、睡眠導入剤を飲み物に混ぜた(薬剤投与した)准看護師が傷害容疑で逮捕されたという事件が記憶にあたらしいところでしょう。
人に薬物を投与したり、針を指すという行為は、基本的には傷害です。
しかし、高度に訓練を受けて免許を与えられた「医師」が医学的な妥当性をもって行うとき限り、その判断と行為が正当化されて、診断・治療という名前に変わると考えてみてください。
ここで3つのポイントがあります。
1.行った行為(処置:医行為)は正しく実施されたか?
2.行為を実施するという判断(診断)は妥当だったか?
3.実施者は、1と2を行うだけの訓練をされた人間であったか?
日本では、医学部に入学し6年間の教育を受け、医師免許を取得することで上記の1〜3が担保されるとみなされます。
つまり、傷害と医行為を区別するポイントは一言で言えば「免許」です。
緊急避難ということで大目に見たとしても、「教育・訓練」が問題となるのは必至でしょう。
今は、判例がなく、なんとも言えませんが、今後は、この教育・訓練の妥当性が焦点となっていくはずです。
Garvy誌の記事の中で、「ウィルダネス・ファーストエイド講習に参加した医療者は、対処法に問題はないと考えています」「医師も学ぶ点が多いなど、好意的な話や」と言った一文があり、医学的な妥当性があることを示唆していますが、医学的に正しいことであっても、それをウィルダネス・ファーストエイドという国家資格とは無縁の外国の教育を受けることで、基礎知識のない一般人が、妥当な判断をできるように人材に育つのか、また技術の保証がされるのか、ということこそが問題です。
そこに関しては、カンファレンス中でも言及はされませんでしたし、記事にも書かれていません。
だからこそ、記事の結論として、「現時点での考え方は、従来からの現場課題であり、カンファレンスだけで問題解決する話ではありませんでした」としているのは妥当だと思います。
医学的正当性を検証するだけでは不十分です。教育的な妥当性も検証されなければならないのです。
「この先の良き前例の積み重ねによって、ウィルダネス・ファーストエイドへの理解と必要性を作り上げていくことの確認がなされました」
この当事者になる覚悟は重いです。
簡単にいえば、訴追される、裁判になるという覚悟です。
そうして、裁判や、社会問題として検討されていく積み重ねが、今後必要だということです。
次回は来年の6月に長野でウィルダネス・リスク・マネジメント・カンファレンスが開催される予定です。
このカンファレンス自体は、ファーストエイドに特化したものではなく、あくまでも野外リスクマネージメントという視座の中のひとつとして、今回たまたまファーストエイドが選ばれただけです。ですから、次回のテーマは、遭難かもしれませんし、落雷かもしれません。
しかし、今回、懸案だったウィルダネス・ファーストエイドの現状確認の第一歩が行われたわけですから、この先のウィルダネス・ファーストエイドの日本国内定着に向けての議論は、今後も続けていってほしい永代のテーマだと思っています。
WRM関係者ならびにすべてのWFA講習提供者の方たちには、この点、切にお願いしたいと思います。
このカンファレンスに関しては、医療や法律に明るくないアウトドア専門家たちをミスリードする危険をはらんでいたことは以前にブログでも書かせていただきました。
カンファレンスには、メディア関係者も来ていたため、どのように報じられるかを懸念していましたが、Garvy誌に関しては、きちんと正しく伝えてくれていたため、一安心。
どのような内容だったのかは、ぜひ Garvy誌2017年8月号 の106〜107ページを御覧いただきたいのですが、かいつまんで要点だけを確認し、補足をしておきます。
(ウィルダネス・ファーストエイドが)「一般的に知られる救急法と異なる点は、救急車が来ないようなウィルダネスエリアで、より高度な救急処置を行うことです。例えば、一般的には救急隊員が判断し、医師が処置するような頚椎保護の診断や、脱臼の整復、深い創傷の洗浄や、注射の使用などがこのウィルダネス・ファーストエイドには含まれます」
(小清水哲郎:野外救急法の最前線, Garvy 2017年8月号, p.106, 実業之日本社)
記事の中では、まずは日本の一般的なファーストエイド(救急法)とウィルダネス・ファーストエイドの違いを明確にしていました。
この点は、先のカンファレンスではまったく言及されていなかったという問題点は以前に指摘したとおりです。
パネラーとして登壇した弁護士や医師が言及する「ファーストエイド」が日本の一般通念によるファーストエイドなのか、北米の特殊なウィルダネス・ファーストエイドなのかはっきりしないまま議論が進んでいたため、オーディエンスに誤解を与える問題点となっていました。
- 日本の一般的なファーストエイド(日赤や消防で教える内容)……医療行為は含まれない
- 北米発祥のウィルダネス・ファーストエイド……注射や脱臼整復などの医療行為を含む
まずは、この違いをきちんと区別して考えることが重要です。
それがウィルダネス・リスク・マネジメント・カンファレンスでは抜けていました。
その点、Garvy記事はきちんと補足してくれています。
その上で、法的な視点ということで次のようにまとめています。
「一般的なファーストエイドを緊急時対応として行うことは問題ないが、『ウィルダネス・ファーストエイドの場合は、実際の個々の案件による』とのこと。事例が多くなく、また判例もないことから、現時点では万が一の場合は『医師法違反にはならないが傷害罪になる』可能性がある、という話でした」
(小清水哲郎:野外救急法の最前線, Garvy 2017年8月号, p.107, 実業之日本社)
この部分ですが、前回のBLS横浜ブログ記事で書いたとおり、フロアからの質疑応答によって初めて言及された部分でした。つまり、たまたまの質問がなければ全くスルーされていた部分です。ここをきちんと拾ってくれた記者の方には感謝です。
医師法違反が問われるのは、「反復継続の意志」を持って医行為を行った場合ですから、単発の偶発的な医療行為が医師法に抵触しないのは、AEDやエピペンの市民解禁ですでによく知られているとおりです。
しかし、医師以外が行う医行為は、その正当性を担保するものがありませんから、社会的相当性によって判断され、否となれば、人を傷つけたという傷害の罪が問われる可能性は十分にありえます。これは医師法とはまったく別の問題としてウィルダネス・ファーストエイド・プロバイダーの前に立ちはだかっているのです。
一般の方はあまり考える機会がないかもしれませんが、医療行為のほとんどは、目的や妥当性を誤れば、人を傷つける行為、傷害と紙一重です。
つい先日も、睡眠導入剤を飲み物に混ぜた(薬剤投与した)准看護師が傷害容疑で逮捕されたという事件が記憶にあたらしいところでしょう。
人に薬物を投与したり、針を指すという行為は、基本的には傷害です。
しかし、高度に訓練を受けて免許を与えられた「医師」が医学的な妥当性をもって行うとき限り、その判断と行為が正当化されて、診断・治療という名前に変わると考えてみてください。
ここで3つのポイントがあります。
1.行った行為(処置:医行為)は正しく実施されたか?
2.行為を実施するという判断(診断)は妥当だったか?
3.実施者は、1と2を行うだけの訓練をされた人間であったか?
日本では、医学部に入学し6年間の教育を受け、医師免許を取得することで上記の1〜3が担保されるとみなされます。
つまり、傷害と医行為を区別するポイントは一言で言えば「免許」です。
緊急避難ということで大目に見たとしても、「教育・訓練」が問題となるのは必至でしょう。
今は、判例がなく、なんとも言えませんが、今後は、この教育・訓練の妥当性が焦点となっていくはずです。
Garvy誌の記事の中で、「ウィルダネス・ファーストエイド講習に参加した医療者は、対処法に問題はないと考えています」「医師も学ぶ点が多いなど、好意的な話や」と言った一文があり、医学的な妥当性があることを示唆していますが、医学的に正しいことであっても、それをウィルダネス・ファーストエイドという国家資格とは無縁の外国の教育を受けることで、基礎知識のない一般人が、妥当な判断をできるように人材に育つのか、また技術の保証がされるのか、ということこそが問題です。
そこに関しては、カンファレンス中でも言及はされませんでしたし、記事にも書かれていません。
だからこそ、記事の結論として、「現時点での考え方は、従来からの現場課題であり、カンファレンスだけで問題解決する話ではありませんでした」としているのは妥当だと思います。
医学的正当性を検証するだけでは不十分です。教育的な妥当性も検証されなければならないのです。
「この先の良き前例の積み重ねによって、ウィルダネス・ファーストエイドへの理解と必要性を作り上げていくことの確認がなされました」
この当事者になる覚悟は重いです。
簡単にいえば、訴追される、裁判になるという覚悟です。
そうして、裁判や、社会問題として検討されていく積み重ねが、今後必要だということです。
次回は来年の6月に長野でウィルダネス・リスク・マネジメント・カンファレンスが開催される予定です。
このカンファレンス自体は、ファーストエイドに特化したものではなく、あくまでも野外リスクマネージメントという視座の中のひとつとして、今回たまたまファーストエイドが選ばれただけです。ですから、次回のテーマは、遭難かもしれませんし、落雷かもしれません。
しかし、今回、懸案だったウィルダネス・ファーストエイドの現状確認の第一歩が行われたわけですから、この先のウィルダネス・ファーストエイドの日本国内定着に向けての議論は、今後も続けていってほしい永代のテーマだと思っています。
WRM関係者ならびにすべてのWFA講習提供者の方たちには、この点、切にお願いしたいと思います。