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AHA-BLS2015の改定 オピオイド中毒による呼吸停止とナロキソン注射

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AHAガイドライン2015アップデートにより、BLSの範疇にナロキソン注射というのが新たに登場しました。結論から言えば、日本では無視していいものですので、一般の方は気にしなくていいです。

ただし、AHA版のBLSアルゴリズムの中では言及されているものなので、AHA-BLS教育に携わる人は知っておいたほうがいいでしょう。

これはオピオイド過量摂取、つまり麻薬中毒に関連した話になります。

麻薬を過剰摂取すると、呼吸抑制が起こります。簡単にいうと呼吸が止まります。

この初期状態で傷病者として発見された場合、「意識なし、呼吸なし、脈あり」という状態で認識されます。

BLSアルゴリズムに従えば、この場合は5−6秒に1回の補助呼吸(人工呼吸)をして、2分毎に脈拍チェックをして、救急隊を待つということはG2010のときと変わりありません。

しかし、傷病者が麻薬の常習者だったり、薬物摂取をうかがわせるような状況だった場合、緊急通報とAED手配の他、オピオイドの拮抗薬であるナロキソン自己注射器があれば持ってくるように周りに依頼することが追加されました。そしてAEDの場合と同様、可能になり次第、ナロキソン0.4mgを筋肉注射するということが、BLSアルゴリズムの延長として提示されています。

注射というからには二次救命処置の範疇と考えられますが、AHAガイドラインでは、これはヘルスケアプロバイダーだけではなく、市民救助者にも求めるBLSの範疇というのですから驚きです。

米国では2014年に市民救助者向けのナロキソン自己注射器が米国食品医薬品局(Food and Drug Administration : FDA)により承認されているそうです。

それだけ米国では薬物中毒が日常的だということなんでしょうね。

感染管理で有名なCDC(Centers for Disease Control)でも「市民救助者向けナロキソンプログラムが成功していることを強調している」とのこと。


米国に習い、日本のファーストエイド領域でもエピペンが入ってきました。そこに加えてナロキソン自己注射器も、ということになるのか、というとそういうことはなさそうです。

オピオイド中毒に関しては、ガイドラインの原本ともいうべき国際コンセンサスCoSTR 2015では、ナロキソン投与の効果を認めつつも、少なくともBLS範疇に組み入れることは推奨していません。

当然、日本のガイドラインも同じスタンスです。

このナロキソンの市民による注射は、米国が自国事情に合わせて独自に組み入れたものですので、その米国基準の講習プログラムを日本で展開する際には注意が必要な部分となります。

これまで医療者向けBLS部分では日米で大きな差異はありませんでしたが、今回、各国の独自性が色濃く出てきた印象です。





AHAガイドライン2015、BLS-HCP成人心停止アルゴリズム解説

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AHAガイドライン2015のBLS-HCPアルゴリズム


AHAガイドライン2015の成人BLSアルゴリズムについて解説します。

アルゴリズム図をみていただくとわかるとおり、表面上目立った大きな変更はありません。 (この図はcirculation誌の図表を元にBLS横浜が独自に作成したものです。AHAのG2015ハイライトの暫定日本語訳のものとは表現が異なっています。ご注意ください)

AHAは今回のガイドライン改訂を、新ガイドラインを発表したというよりは、updateという表現をしています。前回のG2010で概ねガイドラインは完成したものとして考え、そこに修正や追加を加えたような感じで捉えたらいいでしょうか。抜本的な見直しではない、ということです。

さて、それでは成人の心停止BLSアルゴリズムを順番に見ていきましょう。


1.安全確認


まずは周囲の安全確認という基本事項があえて明記されるようになりました。これまでヘルスケアプロバイダー向け勧告では不思議と周囲の安全確認ということがアルゴリズムにもコースにもほとんど含まれていませんでした。

一方、ハートセイバーCPR AEDコースでは実技試験のチェック項目にも入っているくらいの大事なポイントだったのですが、あまりに当たり前すぎて省略されていたのかもしれません。今回は、救命の連鎖が病院外と病院内という分け方をされたこととも関係しているものと思われますが、とにかく「周囲の安全ヨシ!」が医療者向けプログラムでも再確認されました。

2.反応確認


2番目のボックスは「大丈夫ですか?」という反応確認です。G2010版では反応確認と併せて呼吸確認をほぼ同時に行うということになっていましたが、今回、扱いが変わりました。

傷病者に反応がないことを確認したら、その時点で「誰か来てください!」と叫ぶことになりました。G2005に戻った感じですね。人が来れば、その人に119番とAEDを頼めばいいですが、誰も来なければ携帯電話等で通報をし、誰かにAED手配を頼むか、自分で取りに行くことになっています。

ガイドライン本文を読むと市民救助者は上記の通りですが、ヘルスケアプロバイダーに関しては少し違うようで、

Healthcare providers should call for nearby help upon finding the victim unresponsive, but it would be practical for a healthcare provider to continue to assess for breathing and pulse simultaneously before fully activating the emergency response system.

と書かれています。「誰か来てください!」と叫ぶまでは市民と同じでいいとして、その後、通報を完了するまでに呼吸と脈拍を評価することが実践的であろう、という扱いになっています。

つまり、結局のところヘルスケアプロバイダーが「誰か!」と叫ぶ以上の通報努力をどのタイミングでするのかが明確ではありません。新しいBLSヘルスケアプロバイダーコースのうえで、どう規定されるのか、またスキルチェックシートでなにが求められるのかが気になるところです。

いずれにしても通報に関しては、これまでは、固定電話が前提で考えられていましたので、その場を離れて電話機まで走ることが想定されていましたが、今回から、携帯電話や無線機、SNSなど、現場にいる状態で、その場から携帯端末で通報を行うスタイルが明確に打ち出されています。

さらにいうと、スマートフォンなどで標準的に使えるスピーカー通話(ハンズフリー通話)のことも念頭に置かれています。つまり、反応がないと判断した時点で、周囲に誰もいなければ、スピーカー通話で119をプッシュし、呼吸確認と脈拍確認を行いつつ、指令員に通報、さらには消防指令と話をしながらもCPRを続けるということが想定されています。

3.呼吸と脈拍を同時に確認する


3つ目のボックスは呼吸と脈拍の評価です。前回のG2010では、反応と呼吸をほぼ同時に見ろと言っていましたが、今回は、1:反応確認、2:呼吸と脈(同時)となり、少し整理された感じです。

前回ガイドラインの反応と呼吸を同時に見ることは現実的に不可能でした。AHAも「ほぼ同時に」という表現を使っており、それでいて、呼吸確認に要する時間を明確に規定していなかったため、やり方には諸説あり、不明確なまま5年が過ぎました。

その点、今回の「呼吸と脈拍」の同時確認はすっきりしています。JRCガイドラインと違って、AHAでは、呼吸確認に頭部後屈あご先挙上法での気道確保を求めていませんから、呼吸確認は胸から腹にかけての動きを「見る」だけでOK。その間に自分の指を傷病者の頸動脈に当てておけば、10秒以内で呼吸と脈拍を同時に無理なく見ることができます。


もし、ボックス2の時点で、携帯端末を持っていないなどの理由で、通報を後回しにした場合でも、CPR開始の手前の時点では、その場を離れて公衆電話に走るなど、救急対応システムの発動(ならびにAED手配)を行う必要があります。

4.CPR開始


3つ目のボックスまでで、「反応なし、呼吸なしor死戦期呼吸、脈なし」であれば、胸骨圧迫から30:2でCPRを開始するというのはこれまでと変わりません。

ただし、質の高いCPRの指標が若干変更されました。

アルゴリズム図には記載されていませんが、変更は下記のとおりです。

 胸骨圧迫
  ・強く・・・少なくとも5cm。ただし6cmを越えないこと
  ・速く・・・100~120回/分
 
リコイルや圧迫中断を最小限に、人工呼吸に関しては過換気を避けるというのは変わりありません。

この点は、2013年のサイエンスアップデートですでに示されていた点でなにも目新しい話ではありません。G2010でヨーロッパのガイドラインでは、すでに6センチや120回という上限を示していましたが、これが踏襲された形です。

また圧迫の手の位置「胸骨の下半分」という部分も変更ありません。

5.AED


AEDのアルゴリズムについては、なにも変更はありません。



非心停止対応について


3つ目のボックスから左右に別れるところが、今回のガイドライン改訂の要所かなと思います。つまり、反応がないものの、呼吸と脈があった場合(左)、反応と呼吸がなく、脈があった場合(右)です。

これらは、心停止ではありません。

BLSでは心停止ありきで心臓が停まっていることしか考えていないものなのですが、その中でも今回は、心臓が止まっていないケースを2パターンにわたってきちんと考慮している点が、非常に現実的になったように感じています。

特に左の流れ、これが、PEARSファーストエイドの入り口となります。今回のガイドライン改訂で病院内心停止を病院外心停止とは区別する概念が明確化されましたが、院内心停止の多くは心室細動による心臓突然死ではないということが言われています。

予兆のある防ぎ得た死が病院内心停止の特徴。ですから心臓が止まる前に介入しなければならないのです。そういった概念がきちんとBLSにも反映されてきたのは今回のガイドライン改訂の包括的な意味なのかなと思います。

●反応なし+呼吸あり+脈あり


簡単に言えば意識障害の状態です。これまでのヘルスケアプロバイダー向けアルゴリズムには含まれていなかった部分になります。

人の生命を司る、呼吸、循環、神経系のうち、とりあえず呼吸と循環には問題がない。ですから、とりあえずBLSは必要ではない。つまり、1分1秒を争うような緊急事態ではないということです。ですから、救急隊や医師などの専門家に委ねるまでは経過観察を行えばよいということになります。

この場合、原因検索とか全身評価とか難しい話になりがちですが、原点はもっとシンプルです。

BLSプロバイダーとしては、CPRという最後の砦ともいうべき武器を持っています。いまその武器を行使しないのはなぜかというと、意識障害はあるものの、自発呼吸があり、心臓も循環を保てているからです。

そう考えると自ずと何を観察すればいいのかは見えてきます。つまり、呼吸の観察を続けていること、が最優先です。息をしている限り、心臓も動いているからです。もちろん、脈拍をチェックし続けても構いませんが、ABCという人が生きるしくみを考えたら、なにはさておき呼吸確認が大切です。

●反応なし+呼吸なし+脈あり


いわゆる呼吸停止ケースです。対応としては、補助呼吸 Rescue Breathing ということで、ガイドライン2005時代から変わっていません。心臓が動いているから胸骨圧迫は不要。しかし自発呼吸がないから呼吸のみを補助すればいい。具体的には5-6秒に1回の人工呼吸を行います。

呼吸停止ケースで発見できた場合は、いわゆる呼吸原性心停止を早期に発見できたものと考えて下さい。徐脈になっているケースが多いかと思います。

人工呼吸で心筋細胞に酸素が供給されれば、心拍数は戻り、血圧上昇を伴えばやがては自発呼吸の再開し、意識を取り戻す可能性もあります。

しかし、酸素化がうまく行われないと、心拍数は下がっていく可能性もあります。ですから2分毎に脈拍をチェックし、もし10秒以内に確実に脈が触れると確信できる状況でなくなっていたら、循環補助つまり胸骨圧迫も行い、30:2のサイクルで続けます。そしてAEDがあれば装着し、解析結果に委ねます。

ここまでは普通に呼吸停止対応でなにも変わったところはありません。

しかし、G2015で出てきたのがボックスの最後に書かれているナロキソン投与という話です。

これは昨日のブログですでに解説していますので、割愛しますが、米国では呼吸停止ケースというと麻薬(オピオイド)中毒が多いということのようですね。そのため、オピオイド中毒が疑われるケースでは、準備できれば拮抗薬であるナロキソンを自動注射器で注射するということがBLSプロバイダーや市民救助者の処置の中に含まれるようになりました。




劇的に変わる日本の応急手当 国際水準のファーストエイドがついに!

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明日はひさしぶりにハートセイバー・ファーストエイドコースを開催します。

ガイドライン2015が発表になって、日本で大きく変わった点といったら、やっぱりファーストエイドでしょう。

今回はじめて日本版ガイドラインにもファーストエイドの章が新設されました。これでようやく日本でも国際水準のファーストエイド文化がスタートすることになります。

この点、米国ガイドラインでは、少なくとも2005ガイドラインの時点で、ファーストエイドの基準を示していました。2010年では、ファーストエイド国際会議(ILCORとは別組織)を経て、ファーストエイド国際コンセンサスを策定、それを元にファーストエイドガイドラインを打ち出していました。

G2005時代には、日本でも「救急蘇生法の指針2005」の中では、ファーストエイドの項目があり、そこには米国版ファーストエイドガイドラインがほぼそのまま踏襲されて載っていたのですが、なぜか2010ガイドライン準拠の「救急蘇生法の指針2010」では、ほとんどアップデートされることなく、国際ファーストエイドガイドラインは無視した形になっていました。

というのは、ファーストエイド項目は、ILCOR(国際蘇生連絡協議会)の俎上には採択されず、国際応急処置学術審議会(International FirstAid Science Advisory Bord)という別の学術会議での扱いとなっていたからです。

一方、米国では、BLS/ACLS/PALS/NRPに関してはILCOR会議を経たものを、そしてファーストエイドに関しては国際応急処置学術審議会のコンセンサスをもって、AHAガイドライン2010を作成、その中には第12章としてファーストエイドが含まれていました。

今回、ファーストエイドの必要性が国際的に再認識されて、ILCOR審議にファーストエイドが乗りました。しかしそこで取り上げられるトピックは基本的に前身である国際応急処置学術審議会(International FirstAid Science Advisory Bord)の内容を踏襲していますので、以前からファーストエイド・ガイドラインを採用していた米国では、比較的マイナーチェンジだったと言えるでしょう。

G2005はともかく、G2010をスッポ抜かして、今回初めて公式初採択とした日本では、ファーストエイドの認識がガラリと大きく変わったといえます。

ということでファーストエイド・ガイドライン改定に関する温度差は日米では相当違うものであろうと想像できます。


さて、日本のファーストエイドはG2005で止まったままでした。しかし、アメリカ心臓協会のガイドラインは日本語訳されていますし、国際ファーストエイド・コンセンサスに基づいた、ハートセイバー・ファーストエイドコースも完全翻訳されて日本で細々とながら展開されていましたから、米国基準で学んでいたファーストエイド・プロバイダーにとって、それほど目新しい話はないかもしれません。



もし、今回はじめて国際的なファーストエイド・ガイドラインの概念に触れて、これまで日本で考えられていた応急手当の範囲を大きく越えた応急処置の考え方を知った方にとっては、G2010版のハートセイバー・ファーストエイドマニュアルから学んでみることをお勧めします。(最新の日本語情報はまだまだ限定的ですので)

多少、変更されたところもありますが、

・気管支拡張剤の使用
・アドレナリン自己注射器の使用
・胸部症状へのアスピリン投与
・止血帯(特に軍用ターニケット)の使用
・低血糖症状への糖分補給

など、既存の日本の応急手当の概念からは驚くようなトピックスを含んだ内容について俯瞰することができると思います。

G2015版のAHAファーストエイドコースができるのは、予定では2016年1月頃(英語版)です。

日本もガイドラインに従ってファーストエイド教育を始めるのかもしれませんが、これまでの内容とはガラリと変わるために、カリキュラム策定には相当時間がかかることが予想されます。またなにより指導員育成がネックとなるのではないかと考えられます。

いままでは、ハートセイバー・ファーストエイドコースは、あくまで米国基準だったため、日本国内での適応が難しい部分がありましたが、今後は、この差はぐっと小さくなります。

今後は、

ファーストエイドを学ぶならハートセイバー・ファーストエイドコースで!

と、強く言える時代になるのではないでしょうか。



蘇生ガイドライン2015の成り立ち なぜ各国で違う?

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先月、心肺蘇生法のガイドラインが改定されて話題となりました。
この機会に蘇生ガイドライン2015の成り立ちをおさらいしておきましょう。

国際コンセンサスCoSTR2015と各国蘇生ガイドライン2015の関係について


国際蘇生連絡協議会 ILCOR (イルコアと読みます)という組織があります。

これは世界の蘇生科学の研究団体が集まって構成され、5年毎に心肺蘇生法の国際合意を作成しています。

ざっくりというと、命題を決めて、蘇生科学の学術論文を集めて、検討し、その時点で考えられうる最適な蘇生法とその根拠性、限界(ギャップ)を提案するというのがILCOR会議の役割です。

そこで勧告される合意事項(国際コンセンサス)をCoSTR(コスター)といいます。

今回の場合は2015年10月15日にILCORからCoSTRが発表となり、それに合わせてILCOR構成員にも情報解禁されました。結果、CoSTR作成と合わせてガイドライン策定を行っていたアメリカ心臓協会(AHA)とヨーロッパ蘇生協議会(ERC)がそれぞれ独自の蘇生ガイドライン2015を発表しました。

日本は1日遅れて10月16日に日本蘇生協議会(JRC)から日本版蘇生ガイドライン2015オンライン版が発表されています。

CoSTR作成の根拠となるのは世界からの学術論文です。ですから、学術論文で取り上げられないことは、CoSTRでは取り上げられない、もしくは、限界として示されます。

例えば、反応確認を行うときに、両手で方を叩くのか、片手で叩くのか、などといった末端的なことなどは、CoSTRでは取り上げられません。

CoSTRで勧告されることは、基本的に医学的に根拠があることや研究されていることだけです。

しかし、それだけでは歯抜け状態すぎて、実際の指針にはなりえず、蘇生法指導は行えません。

そこで、国際コンセンサスでは抜けている部分を各国事情で補足して、指針としたのが各国ガイドラインです。

国際コンセンサスが骨格で、そこに文化や風土や社会事情を含めて盛りつけしたのがガイドラインと考えるといいかもしれません。

ですから、ガイドラインは国や地域の事情に合わせて違いますし、複数存在します。

それが有名どころではヨーロッパのERCガイドライン、米国のAHAガイドライン、日本のJRCガイドラインというわけです。

いずれも骨格はCoSTR2015に準拠していますから、大きくは同じですが、その解釈や優先順位の考え方などで、かなり違って見える部分もあるのは事実です。


というわけで、ガイドライン2015は絶対無二の唯一のものではないということを是非知っておいてください。

その昔、国際ガイドラインという言い方をしていた時代があったので、そう覚えている人もいるかもしれませんが、国際コンセンサスはあっても、国際ガイドラインは存在しないというのが、いまの蘇生科学の世界です。


ここは日本ですから、日本のJRCガイドライン2015だけ知っていればいいはずなのですが、なぜか、日本ではJRCガイドラインとAHAガイドラインが共存する形となっています。

このあたりのことはまた今度書きたいと思います。




上気道閉塞の吸気喘鳴、下気道閉塞の呼気時喘鳴のメカニズム

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PEARSプロバイダーコース受講予定の方から質問のメールをいただきました。


気道閉塞の徴候について

上気道閉塞の徴候として、吸気性喘鳴があるのですが、なぜ上気道閉塞の際に吸気性喘鳴が出現するのでしょうか。

また下気道閉塞の徴候として、呼気性喘鳴がありますが、その際も呼気性喘鳴が出現
する機序が考えられないです。

上気道閉塞の原因としてクループやアナフィラキシー、異物吸引、感染がありますが、上気道閉塞であっても気道が閉塞しているので呼気の際にも喘鳴が見られてもおかしくないのではと考えています。

下気道閉塞の際にも、呼気だけでなく吸気にも喘鳴が聞くことができないのかと考えました。またテキストには、「下気道閉塞の際に吸気性喘鳴を聞くことができるのはまれ」と書いてあり、なぜかわかりませんでした。

適切な評価をするうえで、暗記では通じないと思ったので今回気道閉塞の喘鳴について質問させていただきました。



理解するための質問、大歓迎です。

この質問に対する答えですが、上気道閉塞に見られやすい吸気時喘鳴は「舌根沈下」をイメージしてもらうといいと思います。

簡単にいうと、いびきです。

いびきって、息を吸うときに聞こえますよね?(今度、隣に寝ている人を観察してみてください)

舌が落ち込んで、気道を覆うようにかぶさっているのをイメージしてください。

吸うときに舌が吸い込まれて張り付いて、気道が塞がれる。そのとき、わずかな隙間から空気が流れこむときに聞こえる音がいびきです。

このことからわかるように、息を吸うときには上気道(胸郭より上の喉)に陰圧がかかります。

クループやアナフィラキシーで上気道全体が腫れて狭窄している場合も、吸気時には上気道に陰圧がかかりますから、気管の奥の方から吸い込まれるように圧力がかかり、気道がより細くなるような力が働き、狭窄して喘鳴が聞こえるというわけです。

吐くときは、下気道から空気が押し出されてくる状態になりますから、上気道は陰圧になりません。ですからさらなる狭窄が起きることもなく、喘鳴は聞こえにくいといえます。



下気道閉塞の場合は、胸郭が縮んで胸腔内圧を上げて空気を押し出しますので、胸郭内にある下気道(つまり気管支)はギュッと圧縮された形になります。もともと攣縮や分泌物で狭窄していたところが、吐くことでより細くなり、喘鳴が聴こえるというしくみです。

呼気時に陰圧となるのは胸郭内の気道、つまり下気道のみです。上気道は胸郭外にありますから胸郭の収縮に伴う陰圧の影響は受けずに細くなりません。ゆえに呼気時の狭窄音は聞こえにくいといえます。


実際のところ、狭窄が顕著であれば、吸気でも呼気でも喘鳴が聞こえることがありますが、どちらの方がより強く聞こえるかという観点で考えてもらえたらと思います。

はっきりしないことも多いですが、下気道閉塞を疑うのであれば、呼気時喘鳴の他に、呼気延長も見られたりしますので、判断がつきにくいときはこうした他の要素も見て、総合的に推察していきます。




Sim-PEARSプロバイダーコース、シナリオの進め方

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PEARSインストラクターマニュアルには、ケースごとの詳細なシナリオシートが載っています。

AHA-PEARS(ペアーズ)プロバイダーコースのシナリオシート


顔色や呼吸様式、呼吸音、毛細血管再充満時間、バイタルサインなどは、DVDの中で動画で示されますが、血糖値や瞳孔径などの情報は、このシナリオに基づいてインストラクターが提示していきます。

シナリオにはケースの導入として、「あなたは4ヶ月の乳児の評価をしています。母親によると3日前から嘔吐を繰り返しており…」というような状況が示されるのですが、BLS横浜では、あえてこの状況提示を行わずにケースを始めることがあります。

なぜかというと、シナリオによっては、「あ、これは敗血症性ショックだな!」などと原因がミエミエなものも少なくないからです。

現実の臨床ではある程度情報があった上で、患者さんに接するのがふつうですから、私たちは常に「情報」による先入観、バイアスを持って診療にあたっています。

場合によっては、先入観ゆえに別の問題を見落とすという可能性も否定できません。



PEARSは臨床所見からフィジカルアセスメントをする力を鍛えるプログラムです。体系的アプローチという見落としを防ぐための標準的な評価方法を身につけるのが目的です。

そのため、臨床からすると不自然ではありますが、あえて、情報は一切提示せず、0の状態から患者を見て、臨床症状だけで体系的に判断していく練習をしてもらっています。



シミュレーション・トレーニングの中では、あとから家族や目撃者が駆けつけて、ようやく話が聞ける、という形で、傷病者の背景や既往などを提示しています。

ここで臨床所見からの判定と、患者背景が一致すればより方向性に確信を持てますし、場合によってはより精度を上げることができるかもしれません。


シナリオトレーニングの中では、受講者の方は「家族を呼んで!」とか「ドクター報告を!」とすぐに助けを求めますが、あえて情報は出さない。

すこし意地悪かもしれませんが、こうして、目の前の患者さんの状態だけである程度判断するという思考を身につけると、どんな場合でも強いのではないでしょうか?


バイスタンダーとしてのファーストエイドの現場は、まさにこれです。

なにが起きたのか、傷病者の状態、既往もまったくわからない。

こんなときにひるまず対峙できるのが、PEARSプロバイダーの強みだと思います。

臨床所見だけであっても、体のなかで起きていることと重症度を判断する思考を持った存在。





AEDを使った二次救命処置(ALS)トレーニング 【Sim-PEARS】

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BLS横浜が開催している「PEARS with シミュレーション」での心停止ケースシミュレーションでは、AEDを使った二次救命処置(ALS)を経験してもらっています。

病棟での心停止にAEDとバッグマスクで挑んでもらうのですが、BLS-HCPと違うのはチームメンバーの看護師が6人いるということ。そして途中から医師と電話連絡がつき、薬剤投与の口頭指示が出るという点。

PEARSでは、PALSと違って、リーダーはインストラクターが行うということになっていますので、このような体裁をとっているわけですが、ここでも重要なのは報告です。チームダイナミクスでいえば情報共有でしょうか。

ナースだけでAEDを使っているシチュエーションであれば、医師としては、AEDの解析結果が気になるところです。

つまり、除細動のショックをしたのか、それともショックは不要と言われたのか?

これによって、アルゴリズムが違ってくるからです。

AEDがショックが必要と判断したのであれば、心停止としてはおそらく心室細動(もしくは無脈性心室頻拍)です。そして、AEDがショック不要と判断したのであれば、心停止のタイプは、無脈性電気活動もしくは心静止です。(通常はモニター波形を見て判断するところを、AEDでの蘇生ではAEDの挙動から判断する、ということです。)

ACLSにしてもPALSにしても、両者ではアルゴリズムが別です。

質の高いCPRが必要という点では同じですが、薬剤投与が違ってきますし、優先すべきもの(除細動/原因検索)も違ってきます。

ここを認識しているかどうか、というのが、この心停止シナリオでは試されるところです。


医師に対して「AEDを使いました!」という報告では不十分だというのはわかるでしょうか?

AEDを使ったというのが、パッドを装着したという動作を意味しているのか、除細動のショックをしたという意味なのか明確ではないからです。

AEDがショック判定をして除細動をしました、もしくは、ショック不要でした、をはっきり伝える必要があります。

この点を認識してもらうために、「ショック不要」設定にしたAEDトレーナーを使ってシミュレーションを行っています。

BLSはとりあえず早期除細動と質の高いCPRができればいいと思われがちですが、病院の中でのBLSはBLSでは終わりません。そして小児に関して言えば、ショック不要と言われる無脈性電気活動のケースが多いはず。

AEDときたら、必ずショックをするものだという昨今のBLS訓練ゆえの先入観を脱却するという点でも、印象深い学習体験になるようです。





Sim-PEARS、シミュレーション・トレーニングの魅力

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BLS横浜で開催するAHA-PEARSプロバイダーコースでは、シミュレーション・トレーニングを取り入れています。(正確にいうと「省略」していません)

BLS横浜の工夫としては、PEARS-DVDの動画で示されるモニター画面だけではなく、リモコン操作できるiPadのモニター心電図アプリを併用して、リアルタイムにバイタルサインを変化させて、シミュレーションの効果を強化しています。

iPhoneの心電図モニターアプリ sim-mon
iPhoneの心電図シミュレーターアプリ sim-mon



PEARSの根幹は、評価-判定-介入-再評価 のサイクルにあります。

PEARS(ペアーズ)の評価-判定-介入のサイクル


問題のタイプと重症度を判定して、安定化のための介入をしたらおしまいではなく、その処置の結果を見て、評価をしていくことが重要です。(ビジネスでいうPDCAサイクルと同じです)

例えば、酸素投与方法として、単純マスク4リットルとした場合、それが妥当なのか、より高流量が必要ではないかは、酸素飽和度の上昇や呼吸状態の変化を見なければ判断できません。

そこで用いるのが、心電図波形や数値を自由に変更することができるモニター心電図のシミュレーターです。

酸素投与後の酸素飽和度の変化はどうなのか、言葉だけのシミュレーションだと抜けてしまうことが多いですが、モニターを使うとよりリアリティを出すことができます。

他にも、例えば、本来はバッグバルブマスク換気が必要な場面で、低流量酸素投与しか行っていない場合は、いつまでもサチュレーションを上げないことで、インストラクターの誘導ではなく、主体的に問題認識を捉えて考えてもらうこともできます。

ショックのケース・シミュレーションでも、輸液のボーラス投与が奏功すれば、呼吸数や心拍数などを斬減させることで、再評価の意義を実感してもらうこともできます。

本来は1千万円近くする高規格シミュレーション・マネキンを使わなければ再現できなかった学習体験が、iPadと数千円(2015年12月現在で2,500円)のアプリで再現できるのは魅力です。


PEARSに限ったことではありませんが、医療現場のトレーニング、特に非心停止対応訓練では、iPadの活用はおすすめです。

BLSやACLSと違って、条件反射を鍛えるのではなく、考え方を鍛えるのがファーストエイド系の非心停止対応訓練。考える材料をどう示すか、そして考える時間を確保することが重要です。




「わかる」と「できる」は違う シミュレーションの効用

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わかることと、できることは違う。

誰でも頭ではわかっていると思います。

しかし、このことを強く突きつけられるのが、シミュレーション・トレーニングではないでしょうか。


Sim-PEARSプロバイダーコースを例に、説明してみます。

PEARSでは、事前学習に加えて、ビデオ教材で体系的アプローチの説明を聞いて、映像を見ながらのディスカッションベースのアセスメント訓練で、A-B-C-D-Eアプローチの仕方を段階的に身に着けていきます。

息も絶え絶えに呼吸をする子どもの映像、顔面蒼白で眼球上転している子どもの映像。

そんなリアルな教材を使ってアセスメントの練習をする、これまでに経験したことがないリアルな学習体験に、座学でのディスカッションだけでもそれなりに満足感を感じるのがPEARS(Simなし)です。

しかし、この後、2010年版からはオプション扱いになっている「シミュレーション」を行うと、受講者の心持ちは変わります。

さっき、映像をみて練習して、なんとなくできる気になっていた体系的アプローチが、マネキンの前に立ち、チームメンバーと向き合った時に、ちっとも進まなくなるのです。

「頭のなかが真っ白になった」という感想は珍しくありません。

分かった気になっていたけど、できない。

そんな現実に直面するのです。


PEARSプロバイダーコースで、体系的アプローチを学ぶのは、試験に合格するためではありません。

臨床で使うために学ぶのだという点は言うまでもありません。

体系的アプローチという手法を知るのが第一歩ですが、知るだけでは使えない。

そのことに気づくだけでも、シミュレーションの効果は絶大です。

シミュレーションを通して使い方の練習を行い、チームメンバーとの連携の仕方と報告を体得するというさらなる学習体験が必要です。

そして、最終段階として実臨床で使ってみる。

そうして、「知る」と「できる」の間の溝を埋めていく必要があります。

特に実臨床の前に、患者さんに不利益のないシミュレーション学習で経験値を上げておくことは大きな意味があります。シミュレーションありとなしでは、「できる」までの段階差は雲泥の違いといって過言ではありません。




G2015コースへの移行について

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世界の蘇生シーンをリードするアメリカ心臓協会(AHA)の講習プログラムは、早くも2015ガイドライン準拠に切り替わりました。この12月からG2015 Interim(暫定)コースが始まっています。

AHAのG2015 Interim(暫定)コースは、旧ガイドライン2010版のテキストとDVDを使って進められますが、AHAが提供する補助教材を使ってG2015の手順・基準で指導をしていきます。

筆記試験問題、実技試験チェックリストも新しくなっています。

暫定コース資料の日本語化の問題もあって、日本国内では、旧来のG2010コースのままで、切り替わっていないところが大半だと思います。

旧2010コース開催が許容されているのは、2016年2月15日まで、それ以降は、暫定コース/正規コース含めてすべてガイドライン2015準拠で指導をしなければならないと定められています。

なお、BLS横浜では、年内のコース開催予定はありませんので、G2015暫定コースの開催は、2016年1月以降となります。最初は1月11日(祝)のPEARSプロバイダーコースからG2015 Interimコースに移行し、以後開催するAHA講習はすべてG2010暫定コースとする予定です。





福岡県久留米市に新しいAHA活動拠点誕生「CPR-netくるめ」

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BLS横浜では、トレーニングサイト設立支援、独立インストラクター育成を積極的に行っています。

具体的な講習展開ビジョンを持っている方からお申し出があれば、オンデマンドでAHAインストラクターコースを開催し、独立までの支援を行っています。

2014年は、熊本と沖縄に新しい活動拠点ができ、独立していきましたが、今年は福岡の久留米に新たな活動拠点が誕生しました。

CPR-netくるめ主催AHA-BLSヘルスケアプロバイダーG2015暫定コース


福岡県では、すでに複数のAHAトレーニングサイトがありますが、医の町とも言われる久留米には公募でAHA講習を開催する拠点はなく、BLSやACLSを受講しようと思ったら、みんな遠い博多まで通っていたという現状を聞きます。

市民向けCPR講習をボランティアベースで進めていた「CPR-netくるめ」さんから連絡をいただき、今回、新たにAHA-BLS講習を展開するAHA活動拠点として動き出すまでお手伝いをさせていただきました。

九州ではおそらく初開催となるAHAガイドライン2015準拠暫定コース開催を達し、九州地区では一歩先ゆく展開を見せている「CPR-netくるめ」。

今後は春過ぎには、ACLSプロバイダー【1日】コースも公募開催していく見込みです。

さらには今話題のPEARS with シミュレーションコース展開も視野にいれており、九州ではいちばん勢いのあるトレーニングサイトといっていいかもしれません。

AHA講習に関しては、プロバイダーカードの有効期限である2年間は、知識・技術を保証したいというインストラクターの心意気から、無料の復習参加制度も取り入れています。

一方通行ではない、インストラクターと受講者の相互作用を大切にする講習展開。

今後の発展が楽しみです。


CPR-netくるめ
http://www.cpr-kurume.net/

BLSヘルスケアプロバイダーコース(G2015暫定版)受講者募集中です。
1月16日(土)、1月22日(金)、1月25日(月)




ポケットマスク人工呼吸を教える際の動機付け(教育工学的視点から)

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2010年版からBLSヘルスケアプロバイダーコースでは、口対口人工呼吸の練習がなくなりました。

BLS-HCPコースは、救命のプロのための一次救命処置講習です。

米国では労働安全衛生局(OSHA)の勧告で、業務上の蘇生では感染防護具を使うことを義務付けられています。そこで医療者レベルの教育では、練習するのはバッグマスクとポケットマスク(フェイスマスク)換気だけになってしまいました。

ただ、日本の医療現場では、ポケットマスクは知られていませんし、病院として用意しているところもほとんどないでしょう。

BLS-HCP講習で、初めてポケットマスクの存在を知ったという医療従事者も多いことと思います。

小児BLSマネキンとポケットマスク:成人用と小児用


米国で作られた講習DVDでは、ごくあたりまえのようにポケットマスクの練習が始まりますが、この点、日本では「医療従事者であっても知らない人が多い」という事情に合わせて、一歩踏み込んで説明しておいたほうがいいと思っています。

特に、見たこともなく、どこで使うのかもわからないポケットマスクの練習をさせるなら、教育工学の動機付けモデル(例えばARCSモデル)を考慮して、学ぶ意義は伝えるべきかと思います。

そこで、BLS横浜では、この写真のようなケースをお伝えしています。


AEDと共に配備されたポケットマスク
↑ 横浜市内の公民館に置かれていたAEDとポケットマスク



これは、とある公民館に設置されていたAEDの写真です。

赤いAED本体の上に、黄色と黒(青?)の物体が置かれているのが見えますか?

ポケットマスク、がきちんと用意されていたのでした。

このように、「病院では見たことないかもしれないけど、街中に設置されているAEDの中には、ポケットマスクが準備されている場合があるんですよ」とBLS講習の中で伝えることは大切かなと思っています。

なので、BLS横浜で開催するBLSヘルスケアプロバイダーコースやハートセイバーCPR AEDコースでは、AED本体だけではなく、収納ソフトケースも示して、「もし、街中で救命する機会があって、AEDといっしょにこんなケースがあったら、これだ! と思ってぜひ使ってくださいね」という話をしています。



BLSヘルスケアプロバイダーコースを受講に来る方の大半は、病院業務で活かすためと考えていますので、勤務先病院にポケットマスクがなければ、練習を行う意義について空虚になりがちです。

ですから、インストラクターは、「学習内容が自分にとってどのように役立つのか?」というARCSモデルの Relevance(関連性)を提示しつつ、学習を進めることは大切だと思っています。


さて、街中のAEDにポケットマスクが用意されているのは普通のことなのか、という話ですが、これはなんとも言えません。

AEDを購入ないしはリース契約をする際に、販売業者はさまざまなオプションを勧めてきます。服を切るためのハサミやタオルやカミソリをまとめたポーチや、予備のAEDパッドなど。

この中の一つとしてポケットマスクがあるわけですが、それを追加購入するかどうかを決めるのは、施設の設置者です。

知り合いのAED販売をしている人は、医療・福祉系施設に納入するときはポケットマスクの追加配備を強く勧めて、練習もしてもらっている、といっていましたが、一般の販売員がどこまでポケットマスクの重要性を認識しているかによって温度差はあると思います。


先ほどの写真の施設は、業者から勧められるままにポケットマスクを配備したというよりは、おそらく中身をきちんとわかった職員や第三者によって整備されたもののように思います。

というのは、AEDの脇にジップロックに入ったガーゼやタオルが見えますが、明らかに「手作りキット」だからです。

別の例として、とある小学校を訪問した際には、ポケットマスクだけではなく、バッグバルブマスクもAEDケースの上においてあって驚きましたが、ポケットマスクは、ケースに収めた状態ではなく、すぐに使えるように立体的に組み立てた状態でジップロックに入れてAEDとつなげておいてありました。

これは学校内でシミュレーションを行った際に、ポケットマスクの組み立てが時間がかかって現実的ではないと気づいたからだそうです。


AEDを配備するのはいいですが、その施設ごとの特性や訓練内容と合わせて、AED付属キットのアレンジを考えていくのは大切なことと思います。



心肺蘇生法練習マネキンが服を着ていないといけない理由

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先日、BLS横浜の講習会に手伝いに来てくれたインストラクターの方に言われました。

「わざわざマネキンに服を着せているんですね!」と。

BLSマネキンには服を着せる必要がある


心肺蘇生法練習用マネキンを購入すると、専用の前開きのシャツがついてきます。
ただ、ジッパーの部分が壊れやすく、壊れたらそのまま使わなくなる=裸のままの状態で使用、ということが多いようです。

BLS横浜では、マネキン専用の服が壊れた後は、写真のようにお古の服を着せています。マネキンを並べると、みんな違う色とりどりの服を着ているものだから、パッと見で目立つんでしょうね。

さて、BLS横浜の心肺蘇生法講習で、きちんとマネキンに服を着せている理由ですが、ひとつはアメリカ心臓協会の講習開催基準で定められているからです。

ハートセイバーCPR AEDコースの必要機材準備リスト


これは対応義務のある職業人のためのハートセイバーCPR AEDコースのインストラクターマニュアルの必要機材リストの一部ですが、manikin with shirtと書かれています。

ただのマネキンではなく、「シャツを着た」という指定が付いているんですね。

これを基準として、BLS横浜の講習では、原則的にすべてのBLS系講習でマネキンと服はセットで考えています。

実は、主に医療従事者向けのBLSヘルスケアプロバイダーコースのインストラクターマニュアルでは、(シャツを着ている)マネキンという限定はされていません。

ただ、マネキンとしか書かれていないのです。

そこで、BLSヘルスケアプロバイダーコースしか開催しないトレーニングサイトでは、とかく衣服には無頓着になるのだと思います。

ハートセイバーコースであえて、服を着ていることが求められている理由ですが、医療者にとっては、AED使用の際に衣服をハサミで切るのはあたりまえのことですが、学校教職員や警備員、一般の方など、いわゆる市民救助者にとっては、見ず知らずの人を衣服をはだけるという動作は日常的なことではありません。

「本当に服を脱がせていいのか? 切っていいのか?」

この所作が心理的に障壁が大きいことは想像に固くありません。

そこで、CPRを開始するときやAEDを装着するときに、服をはだけるという動作を意図的に練習させているのです。

そんな意図を考えたら、たかが服一枚ですが、あるなしでは大きな違いですよね。


一般講習では、練習の簡便さとのバランスで前開きのベストを1枚着せているだけですが、警備員さん向け講習など、リアリティが求められる講習では、Tシャツを着せた上にベストを着せたり、より現実に近い設定にして行うこともあります。

その場合は、AED練習機に入れてあるハサミで、実際にTシャツを切ってもらう練習もしています。

やってみるとわかりますが、練習とはいえ、CPRをしている状態で、襟元からハサミで服を切ってもらうという体験は受講者にとってはインパクトが大きく、大抵の方がためらいを示します。

その様子を見ていると、練習とはいえ、服を着る体験というのが、現実の行動への期待を考えた時にはとても意味のある練習だと思います。

たかが服1枚ですが、救命法指導員の方は、再考してみてはいかがでしょうか?




【考察】 G2015 ヘルスケアプロバイダーの通報のタイミング

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昨日は、午前中の「傷病者対応コースfor bystanders」に続けて、午後はBLSヘルスケアプロバイダーコースを開催しました。

どちらも最新のガイドライン2015で開催したのですが、方や市民向けプロトコル、かたや医療者向けプロトコル。

続けてやってみると、同じガイドライン2015でも、変更の中身は随分と違うものだなと感じました。

市民向けCPRは、しいて言うなら、胸骨圧迫のテンポの上限の120回を示す以外は大きな変更はないように思います。ですから、旧2010の教育ビデオや教え方でもほぼそのまま通じます。

それに対してヘルスケアプロバイダー向け勧告はG2005、2010、2015と大きな変遷を見せています。

手順の一部だけをピックアップして並べますと、

CPR開始までの手順の推移*AHAヘルスケアプロバイダー向けアルゴリズム


こうして並べてみると、最新のG2015は、2つ前のG2005の手順に回帰したようにも見えます。脈と呼吸を別々に見るか、同時に見るかの違いだけで、「流れ」としては、2世代前に戻ったようにも思えます。

しかし、問題は、【通報】のボックスの中身にあると思います。

今回のガイドライン2015では、通報の仕方の中身が細かく検討されるようになり、アルゴリズム図からはなかなか計り知れない複雑さを示しています。

これまでのガイドラインでは、「通報」のボックスには概念としては大きくふたつ、

1.救急対応システムへの連絡
2.AED手配

が含まれていました。そしてこれは別個のアクションというよりは、ほぼひとかたまりのものとして捉えられていたように思います。

つまり、「通報」を依頼された人は、「119番に通報して、AEDを見つけて戻ってくる」ことが期待されていました。(細かいシュチュエーション別に見ればもっと多様性がありますが)

G2005と2010のアルゴリズムでも小児に関して言えば、

1.その場で叫び、助けを求める(周りに誰かいるかいないかに関わらず)
2.救急対応システムへの通報+AED手配

というように、評価や救命の手を停めてまでして通報をするか、手を停めずに叫ぶだけで応援を要請するかを分けている部分はありました。

(目撃のない心停止≒呼吸原性心停止であれば、叫んでも誰も来なければ通報よりCPR着手を優先する。2分間CPRしても反応が戻らず誰も来なければ、手を停めて通報+AED入手)


それが、G2015では、成人のBLSアルゴリズムも含めて、通報の中身を3つのフェーズに分ける概念が採用されているように思います。

1.その場で叫び、助けを求める
2.救急対応システムを発動させる
3.AEDを入手する

この視点にたって、G2015成人BLSのアルゴリズムを見ると、すこし解釈が変わってくるかもしれません。

AHAガイドライン2015成人BLSのアルゴリズム一部抜粋(AHAガイドライン2015ハイライトより)



2番目のボックスの中身をみると、傷病者に反応がなければ、

1.大声で周囲に助けを求める
2.携帯端末で救急対応システムに通報する(適切な場合)
3.AEDおよび救急治療資器材を持ってくる(もしくは誰かにAEDを取ってくるように依頼する)

という行動が示されています。

これを見ると、このボックスで必ず行うのは、

1.その場で叫ぶ
2.AEDを取るか手配する

の2点であり、救急対応システムへの通報は(適切な場合)とあり、絶対条件的には書かれていません。

そして、心停止確認後、CPR開始前に破線部分の注釈にあるように、CPRを開始する前には、

1.救急対応システムへの出動要請
2.AED手配

の2点が修了していることが求められています。

これらをどう解釈するか、、、、ですが、この例は成人のBLSですから、心原性心停止(すなわち心室細動)を前提とし、救命の要は早期除細動と考えます。

ですから、反応がない人がいた場合は、心停止を確認する以前の速いうちからAED手配を考えます。つまり、まずは叫んで近くに人がいればAEDを持ってくるように頼み、もし誰もいなければ、近くにAEDがあることを知っていれば自分で取りに行きます。

AED手配と救急対応システムの通報がこれまでは同列に扱われていたのに対して、ここからは、AED手配が優先されることが示されているように思います。

現実的には、AEDが近くにあることを知らなければ、119番通報することが、=AED手配ということにもなるかと思いますが、厳密には概念を分けていると考えると、理解しやすいように思います。

話が少し込み入ってきてしまいましたが、結論をいうと、ヘルススケアプロバイダーの通報のタイミングはフレキシブルで、明確には規定されていないということです。携帯電話や病院内PHS、トランシーバーのような携帯端末で時間を掛けずに通報できる場合は、早期に呼ぶべきだし、通報に時間が掛かりそうなら心停止を確認してCPR開始する前までには通報するように、ということです。ただし、AEDの手配は遅れることがないように配慮するように、ということになります。

これがガイドライン変更の概念ですが、これをどのように受講者に伝えていくのかは難しいところです。今回出てきたトピックとしては、スマートフォンのハンズフリー通話機能を活用して、手を止めずに通報を行う案も示されています。

教える上では煩雑さは敵ですから、おそらく一元的なシンプルな形に整理されそうな気がしますが、2月15日のヘルスケアプロバイダーコース教材(英語)がリリースされるのが楽しみです。




AHAガイドライン2015講習 受講者用補助資料の配信を始めました

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AHAガイドライン2015準拠の成人・小児(乳児含む)のアルゴリズム図を含む「オリジナル講習補助資料」を作成しました。高画質で印刷できるPDF形式でダウンロードできます。

AHAガイドライン2015の小児・乳児複数BLSアルゴリズム図【BLS横浜オリジナル】

AHAガイドライン2015の小児・乳児救助者1人BLSアルゴリズム図【BLS横浜オリジナル】

AHAガイドライン2015の成人BLSアルゴリズム図【BLS横浜オリジナル】

G2015のアルゴリズムは、公式日本語化されたものが、AHAガイドライン2015ハイライトの中身として米国AHAウェブサイトで公開されていますが、文化背景を考慮しない直訳ということもあり、講習の中で参照してもらうには使い勝手が良くありません。

そこで、英文のガイドライン原本を参考に、BLS横浜で独自でアルゴリズムを整理して、講習会資料として作成した資料です。

これは、AHA公式版ではない点にご注意ください。

またBLS横浜での講習展開のために作成したものですので、院外心停止のアルゴリズムの概念は掲載していないなど、汎用性のあるものではありません。

下記のコースに対応しています。

・BLSヘルスケアプロバイダーコース
・PEARSプロバイダーコース
・PALSプロバイダーコース
・ACLSプロバイダーコース

3枚構成で、BLSヘルスケアプロバイダーコースでは3枚すべて、PEARS/PALSコースでは2枚目と3枚目を使用します。

ACLSプロバイダーコースやACLS-EPコースの補助資料として使う場合は1枚目だけで十分なはずです。

受講者の皆さんの事前学習にお役立てください。



ダウンロード
(PDF:約1.2MB)






PEARSでは教わらない呼吸障害の兆候の機序

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PEARSの学習を楽しくするためのヒントを少々。

生命危機状態として、PEARSプロバイダーコースでは、呼吸障害4タイプと循環障害2タイプの判定方法を学びます。

そのうち、呼吸障害の4つ、すなわち上気道閉塞と下気道閉塞、肺組織病変、呼吸調整機能障害を判定するためには、それぞれに特徴的な症状・兆候を見つけるのがポイントになります。

この表の中では、特徴的な兆候に下線を入れました。

PEARS(ペアーズ)プロバイダーコース呼吸障害の判定


これがわかれば、PEARSコース上、判定はできるのですが、丸暗記しても面白くありません。そこで予習で下記の点を調べてくることをお勧めします。

残念ながらPEARSのテキストにはそこまで細かいことは載っていませんので、手っ取り早くはネット検索などを利用するといいと思います。

1.上気道閉塞では、吸気時に喘鳴(狭窄音)が聞かれるのはなぜか?

2.下気道閉塞では、呼気時に喘鳴(狭窄音)が聞かれるのはなぜか?
  (このメカニズムが分かれば、呼気延長の理由もわかります)

3.呻吟とはなにか? 呼吸のどのタイミングで聞かれるのか? なぜ起きるのか?

4.いわゆる断続性ラ音が聞かれる機序は? 肺のどの部分がどうなってる?


これらをある程度調べておくと、PEARSが俄然おもしろくなってきますので、ぜひ探ってみてください。





呻吟(しんぎん)…肺組織病変の兆候

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PEARSを学ぶからには、呻吟(しんぎん)についても知っておいてください。

PEARS-DVDの中ではGrantingという英単語で表現されています。そして実際の呻吟を呈している乳児の映像も出てきます。

呻吟は泣き声のようにも聞こえる、呼気時の「うめき声」です。
これは息を吐くときに声門が閉じるために生じる音です。

なぜ息を吐くときに声門を閉じるのかというと、胸腔内を陽圧に保って、肺が虚脱するのを防ごうとするからです。

南山堂の医学大辞典では次のように説明されています。

「呼気性呻吟の出る理由は呼気時に声門を閉じることにより、気道内とくに肺胞内に陽圧を残して、肺胞の虚脱を防ごうとするものであり、持続的陽圧呼吸法continuous positive airway pressure(CPAP)の目的とするところと同じである」


簡単に説明すると、肺炎など、炎症によって肺胞が水っぽくなっている状態で、息を吐き切ってしまうと、肺胞がぺたっとつぶれて、表面張力で張り付いてしまいます。

そうなると、次に息を吸って肺胞をふくらませるときに、張り付いたのを剥がすためにより強い力が必要というのは想像できると思います。

風船をふくらませる時も最初が一番力がいりますよね? ある程度ふくらんだところから、風船を大きくするのにはさほど努力は要りません。

つまり、息を吐き切ってしまうと、呼吸がしにくくなるため、それを防ぐために息を吐ききるまえに声門を閉じて肺胞が潰れるのを防いでいる、そんな体の自然の働きです。

このことをイメージしておくと、呻吟を見たときに、肺胞が潰れたら膨らみにくい病態になっているんだなと想像できます。肺胞の問題だから、上気道閉塞や下気道閉塞ではなく、肺組織病変だと関連付けられます。



些細な変更? AHAガイドライン2015のBLSプロバイダーコース

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日本国内事情を見ると、この4月からG2015暫定版のBLSヘルスケアプロバイダーコースに切り替わった、もしくは移行開始というところが多いようです。

G2015暫定(Interim)コースというのは、日本語化されているG2010(1つ前のガイドライン準拠)のDVDとテキストを使いつつ、最新のG2015の内容を変更点としてお伝えしていく開催方式のことを言います。

これもAHA公式の措置で、暫定コース用の新しいスキルチェックシート、筆記試験問題、補助資料がAHAから公式に日本語でリリースされています。

日本では、ようやく講習としてG2015が始まったところですが、米国では2016年2月16日に暫定版ではない正式なG2015 BLS Providerコースの教材が発売され、それから約2ヶ月半。

AHA BLSコースといえば、G2015が正式版があたりまえになっています。(少なくとも私たちが所属しているハワイ州のAmerican Medical Response TCでは)


AHAガイドライン2015版BLSプロバイダーコース筆記試験問題とDVD教材


日本国内で、G2015正式版BLSプロバイダーコースが開催されるのは、早くて夏過ぎだろうと思われます。

日本語教材が発売になるのは6月~7月とアナウンスされていますが、受講者マニュアルもインストラクターマニュアルも同時に出ますので、日本のインストラクターが新教材を入手して、新しい指導方法を習得して公募講習に反映されるのは、おそらく夏はすぎるだろうという憶測です。

意識が高いインストラクターたちは、英語版を発売と同時に入手して、内容はすでにチェック済みかと思いますが、今回、あまりに変更のインパクトが大きく、これを正しく理解して、講習に反映させるのはなかなか大変だと感じているはずです。

ガイドラインのBLSに関する変更点は、

1.評価手順の見直し
2.胸骨圧迫のテンポの変更
3.挿管時のCPRの換気ペースの変更

くらいで、特段新しいことはなく、インストラクターのアップデートも簡単に見えます。

しかし、BLSの蘇生科学ではなく、教育面での大幅な見直しがなされ、講習の在り方の根源から変更になっているというのが、英語版新教材を見てわかったことです。

ガイドラインのBLSの章を見るだけでは気づかない、大胆なコース設計の変更がされたのが、今回の改訂の目玉だと思います。

これは、おそらく蘇生ガイドライン2015の変更点というよりは、AHAのG2015教材の変更と言ったほうがいいかと思います。国際コンセンサスCoSTRでも、教育・普及・実行に関する検討がなされて、各国ガイドラインにも反映されてはいますが、エビデンスという意味では、まだ不十分で国際コンセンサスにはなりきれないことが多くあります。

蘇生教育という点で、たくさんの知見を持っているのは、蘇生教育を世界展開しているAHA。

それらの知見をも加味して、先進的な視点で作られたのが、G2015のAHA教材なのではないでしょうか?


これらの教育面での違いがいちばんわかりやすいのはコースDVDでしょう。

ここから直感的に、コースが根本的に変わった、という点が見て取れます。

その上で、インストラクターマニュアルを丹念に見ていくことで、変更の詳細や、その理由などが見えてきます。

・実技試験では、傷病者の評価手順(反応・呼吸・脈の確認、通報のタイミング等)は問われない
・実技試験で使用する感染防護具は受講者のバックグラウンドに合わせて選択可(BVMでも!)
・筆記試験はテキスト持ち込み可

ゴール・オリエンテッド(Goal oriented)なAHAコースで、講習のゴールがここまで変わった以上、大きな幹が変わったと考えて過言ではありません。

今回、この変更があまりに大きいため、新コースの開催準備にはかなり時間がかかるのではないかと思われます。

結論から言うと、今回の改訂で、AHA-BLSコースは非常に魅力的になりました。

またその意図通りに展開できれば、BLSの実施率の大幅な上昇が望めるのではないかと思います。

だからこそ、インストラクターとしては一日も早いG2015正式コースへの移行を目指したいところです。

移行時期についてはトレーニングセンターなど、所属の判断決定に依存しますが、個人としてのスキルアップが早いに越したことはありません。


そんな意図から、

「G2015時代のBLSインストラクターを目指す」ワークショップ

を企画しました。

新しい英語版DVDを一緒に見ながら、インストラクターマニュアルの記載を紐解き、インストラクターとしてのG2015への完全移行を目指します。

5月8日(日) 横浜開催・・・詳細はこちら

5月29日(日) 久留米開催・・・詳細はこちら


どちらも参加者募集中です。

全国のインストラクターの皆さん、誰よりも速く、G2015コース移行準備を始めませんか?

AHA-BLSインストラクターであれば、所属は関係なくどなたでもご参加いただけます。日頃なかなかない、他の活動拠点のインストラクターとの交流、情報交換の場となればと思います。






上気道閉塞の吸気喘鳴、下気道閉塞の呼気時喘鳴のメカニズム

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PEARSプロバイダーコース受講予定の方から質問のメールをいただきました。


気道閉塞の徴候について

上気道閉塞の徴候として、吸気性喘鳴があるのですが、なぜ上気道閉塞の際に吸気性喘鳴が出現するのでしょうか。

また下気道閉塞の徴候として、呼気性喘鳴がありますが、その際も呼気性喘鳴が出現
する機序が考えられないです。

上気道閉塞の原因としてクループやアナフィラキシー、異物吸引、感染がありますが、上気道閉塞であっても気道が閉塞しているので呼気の際にも喘鳴が見られてもおかしくないのではと考えています。

下気道閉塞の際にも、呼気だけでなく吸気にも喘鳴が聞くことができないのかと考えました。またテキストには、「下気道閉塞の際に吸気性喘鳴を聞くことができるのはまれ」と書いてあり、なぜかわかりませんでした。

適切な評価をするうえで、暗記では通じないと思ったので今回気道閉塞の喘鳴について質問させていただきました。



理解するための質問、大歓迎です。

この質問に対する答えですが、まず、上気道閉塞に見られやすい吸気時喘鳴は「舌根沈下」をイメージしてもらうといいと思います。

簡単にいうと、いびきです。

いびきって、息を吸うときに聞こえますよね?(今度、隣に寝ている人を観察してみてください)

舌が落ち込んで、気道を覆うようにかぶさっているのをイメージしてください。

吸うときに舌が吸い込まれて張り付いて、気道が塞がれる。そのとき、わずかな隙間から空気が流れこむときに聞こえる音がいびきです。(狭い隙間を通るときに音がなるのは笛と同じ仕組です。)

このことからわかるように、息を吸うときには上気道(胸郭より上の喉)に陰圧がかかります。

クループやアナフィラキシーで上気道全体が腫れて狭窄している場合も、吸気時には上気道に陰圧がかかりますから、気管の奥の方から吸い込まれるように圧力がかかり、気道がより細くなるような力が働き、狭窄して喘鳴(連続性の音)が聞こえるというわけです。

吐くときは、下気道から空気が押し出されてくる状態になりますから、上気道は陰圧になりません。ですからさらなる狭窄が起きることもなく、喘鳴は聞こえにくいといえます。



下気道閉塞の場合は、胸郭が縮んで胸腔内圧を上げて空気を押し出しますので、胸郭内にある下気道(つまり気管支)はギュッと圧縮された形になります。もともと攣縮や分泌物で狭窄していたところが、胸腔内圧が上がることでより細くなり、笛のように喘鳴が聴こえるというしくみです。

呼気時に陰圧となるのは胸郭内にある気道、つまり下気道のみです。上気道は胸郭外にありますから胸郭の収縮に伴う陰圧の影響は受けずに細くなりません。ゆえに呼気時の狭窄音は聞こえにくいといえます。


実際のところ、狭窄が顕著であれば、吸気でも呼気でも喘鳴が聞こえることがありますが、どちらの方がより強く聞こえるかという観点で考えてもらえたらと思います。

下気道閉塞を疑うのであれば、呼気時喘鳴の他に、呼気延長も見られたりします。喘息症状を思い出してみてください。がんばって息を吐き出す感じです。なぜ、息が吐きづらくて呼気相が延長するのか?

先ほどの呼気時喘鳴のしくみを考えてみればわかりますよね? 呼吸運動で胸郭が縮まるために、胸腔内圧が上がって下気道が狭くなるために、履く時に努力が必要になるせいで、呼気相が延長するというしくみ。


丸暗記するのではなく、このように理解すると忘れないと思います。




Sim-PEARSプロバイダーコース、シナリオの進め方

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PEARSインストラクターマニュアルには、ケースごとの詳細なシナリオシートが載っています。

AHA-PEARS(ペアーズ)プロバイダーコースのシナリオシート


顔色や呼吸様式、呼吸音、毛細血管再充満時間、バイタルサインなどは、DVDの中で動画で示されますが、血糖値や瞳孔径などの情報は、このシナリオに基づいてインストラクターが提示していきます。

シナリオにはケースの導入として、「あなたは4ヶ月の乳児の評価をしています。母親によると3日前から嘔吐を繰り返しており…」というような状況が示されるのですが、BLS横浜では、あえてこの状況提示を行わずにケースを始めることがあります。

なぜかというと、シナリオによっては、「あ、これは敗血症性ショックだな!」などと原因がミエミエなものも少なくないからです。

現実の臨床ではある程度情報があった上で、患者さんに接するのがふつうですから、私たちは常に「情報」による先入観、バイアスを持って診療にあたっています。

場合によっては、先入観ゆえに別の問題を見落とすという可能性も否定できません。



PEARSは臨床所見からフィジカルアセスメントをする力を鍛えるプログラムです。体系的アプローチという見落としを防ぐための標準的な評価方法を身につけるのが目的です。

そのため、臨床からすると不自然ではありますが、あえて、情報は一切提示せず、0の状態から患者を見て、臨床症状だけで体系的に判断していく練習をしてもらっています。



シミュレーション・トレーニングの中では、あとから家族や目撃者が駆けつけて、ようやく話が聞ける、という形で、傷病者の背景や既往などを提示しています。

ここで臨床所見からの判定と、患者背景が一致すればより方向性に確信を持てますし、場合によってはより精度を上げることができるかもしれません。


シナリオトレーニングの中では、受講者の方は「家族を呼んで!」とか「ドクター報告を!」とすぐに助けを求めますが、あえて情報は出さない。

すこし意地悪かもしれませんが、こうして、目の前の患者さんの状態だけである程度判断するという思考を身につけると、どんな場合でも強いのではないでしょうか?


バイスタンダーとしてのファーストエイドの現場は、まさにこれです。

なにが起きたのか、傷病者の状態、既往もまったくわからない。

こんなときにひるまず対峙できるのが、PEARSプロバイダーの強みだと思います。





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